「(昭和25年頃)或る日古本市で私は清親の版画東京風景の一枚を千円余りで買って、書斎にかけてながめていると、夢ばかり追っていた学生の頃を想い出した。私が卒業したのは大正12年春で関東大震災の前で、東京はこの清親の風景によく似て居り、明治のよき姿がそのまま残っていた。又江戸っ子の人情もあつかった、それからは清親に魅せられ次々と集めたが、当時は未だ安く良質のものが集まった。」(「私と浮世絵」より) |
小林清親
こばやしきよちか
日本橋夜
にほんばしよる
明治十四年(1881)、大判錦絵、[新庄コレクション]
Kobayashi Kiyochika
Nihon-Bashi Bridge at Night
[Shinjō Jirō collection]
小林清親は西洋絵画の影響を受けた東京名所図を数多く発表し、その情感溢れる表現から「明治の広重」と呼ばれる画家です。本作品はその東京名所図の内の一図で、東京屈指の名所・日本橋の夜景を、輪郭線を用いずにシルエットのみで表しています。開化の象徴である馬車や人力車は夜陰に溶け込み、街灯や建物の窓から放たれる光がどこか厳かな雰囲気を生んでいます。こげ茶色の地面と灰色の空の境界にわずかに紫色が施されており、夜の闇の複雑な表情をとらえています。