「私は夜一人でよく書斎にこもり浮世絵を眺めている。その時が一番心の休まる時である。絵をみつめていると作者の心にふれるような気がする。(中略)売れ過ぎて画債に追われ、心に添わぬ駄作まで発表させられた広重の気持等、一生物を作る事に従事してきた自分だけに分かるような気がする。(中略)彼第がいかに経済的に恵まれなかったかは現在でも残っている広重の遺言状が証明している。それにはこの家をたたんで借金を返せとまでかかれている。(中略)現代作家の豪華な邸宅、アトリエを想うと、まったく感慨無量である。私は、浮世絵は作家も作品もわれわれ大衆のものと思っている。」(「山陰中央新報寄稿文」より) |
歌川広重
うたがわひろしげ
東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪
とうかいどうごじゅうさんつぎのうち かんばら よるのゆき
天保五~七年(1834~36)頃、大判錦絵、[新庄コレクション]
Utagawa Hiroshige
The series Fifty-three stations of the Tōkaidō highway (Tōkaidō gojū-san tsugi no uchi):Kambara, Evening snow
[Shinjō Jirō collection]
家も山も全てが雪に覆われています。冬の夜の静寂が画面を支配し、道行く人が雪を踏むかすかな音だけが聞こえてくるようです。華美な色彩を排した白と黒のコントラストが、凍てつき、乾いた冬の空気感を見事に表し、人物の背中をまるめた姿や、菅笠や傘で表情を見せない工夫により、冬の厳しさがしみじみと伝わってきます。数ある浮世絵の雪景表現の中で、最も著名な作品といえるでしょう。